| 《私の本棚 第359 》 令和 8年2月1日号 「幻影の盾」 夏目漱石 作 |
| 1905年4月発表。何かを書きたいがどの様な表現形態が良いか自問自答している初期の作品です。この作品に関しては、物語を書き進める前に、自分の心中を述べている前書き一文が在りますので転記します。 『一心不乱と云ふ事を、目に見えぬ怪力をかり、縹 緲たる背景の前に写し出さうと考へて、此趣向を得た。是を日本の物語に書き下さなかったのは此趣向とわが国の風俗が調和すまいと思ふたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き描景真相を失する所が多からう、読者の誨を待つ』 恐らくの推測ですが、ロンドン留学時代に幅広くかなり多くの英語書籍を読んだ事から、この作品が書かれたものと思います。前書きの中に、「わが国の風俗が調和すまい」 という言葉があります。日本の平安貴族や戦国武将時代を思い浮かべても、人心の底にあるものは同じでも結果の行動には大きな違いが存在しているのを感じます。「読者の誨を待つ」 という言葉は、現代の読者からすると皮肉と感じる人が居るかも知れませんが、決してそのような事では無く、明晰な漱石にしても 「もう少し違う表現は出来ないか」 という真実の心であったろうと思います。しかし、凄い翻訳だと思います。 読書感想を書くのに、大して多くも無い私の蔵書から関連性の在りそうなものを探しました。最初に思い浮かんだのは 【アーサー王物語 (伝説の人) 】 です。しかしボンヤリとした記憶が有るものの、この本の挿絵には 「髪の毛が蛇」 は無く、「盾」 もありません。「女性と林檎」 については記憶とは少し異なりますが、新潮美術文庫のデューラー作品アダムとイブが在りました。挿絵を探して十冊程の神話や民話集を繰りましたが、一から読み直す気力に乏しくどうしようもありません。リンク先のサイトを探すのが精一杯でした。ですが、この作品が発表された明治38年という時代を考えると、大半の読者は 「ヨーロッパにはこんな物語が有るんだ」 と思われたことでしょう。更に深く、日本人とヨーロッパ人の生き方や考え方の相違を知った人も多かったと思います。 唯一点だけですが、漱石が日本の物語に書き下そうと考えていたことを知る次の一文が目に止まりました。 『頭の毛は春夏秋冬の風に一度に吹かれた様に残りなく逆立って居る。』 緯度では北海道より更に北の国、訪れた事はありませんが日本人が感じる四季とは少し違うと想像します。季節の一寸した異なりを知りつつも、筆が走ったのでは無いかと思うのです。 しかしこの様な漱石の努力を知ると、カズオ・イシグロ氏はやはり漱石作品から多くの事を学ばれたように思えてなりません。 私には年齢的にも今更無理ですが、若くて溌剌とした方々は、この 「幻影の盾」 を読む前後に、次のような書物を読んでみてはどうでしょうか?。時間的にゆったりとしている時なら楽しめると思います。 |
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前の頁、変な本とのご縁 次の頁、 Vol.Ⅲ.目次へ Vol.Ⅲ.トップ頁 Vol.Ⅱ トップ頁 Vol.Ⅰ トップ頁 (1)吾輩は猫である (1905.01~1906.08) (2)倫敦塔 (1905.01.) (3)カーライル博物館 (1905. ) (4)幻影の盾 (1905.04.) (5)琴の空音 (1905.07.) (6)一夜 (1905.09.) (7)薤露行 (1905.09.) (8)趣味の遺伝 (1906.01.) (9)坊ちゃん (1906.04.) (10)草枕 (1906.09.) (11)二百十日 (1906.10.) (12)野分 (1907.01.) (13)文学論 (1907.05.) (14)虞美人草 (1907.06~10) (15)坑夫 (1908.01~04) (16)三四郎 (1908.09~12) (17)文鳥 (1908.06.) (18)夢十夜 (1908.07~08) (19)永日小品 (1909.01~03) (20)それから (1909.06~10) (21)満韓ところどころ (1909.10~12) (22)思い出すことなど (1910~1911) (23)門 (1910.03~06) (24)彼岸過迄 (1912.01~04) (25)行人 (1912.01~04) (26)私の個人主義 (.1914.) (27)こころ (1914.04~08) (28)硝子戸の中 (1915.01~02) (29)道草 (1915.06~09) (30)明暗 (1916.05~12) |